10月16日の物語
「がくしの持ってるの、一回り大きいよね。怪しいよね」
マキの何気ない一言は、見事に的中した。
この日のラウンジは、くぼりおが持ってきたロシアンルーレットのお菓子から始まった。
三つのうち一つだけがすっぱいというもので、「当たりたくないー!」と言いながら、それぞれ慎重に選んでいく。
そして、嫌な予感を抱えながらお菓子を口にしたがくしは、案の定、大当たり。
あまりのすっぱさにものすごい顔になり、それを見たくぼりおとマキは大笑い。たった三つのお菓子で、ラウンジはすっかり賑やかになった。
そんな中、遊びに来た友人からSNSのダンス動画を撮ろうという提案が。
「え、こっちはこう?」「あー、わかった!こうだ!」
友人に教えてもらいながら振りを覚え、みんなで動きを合わせていく。
いざ撮影が始まっても、「間違えた!もう一回!」と撮り直しの連続。
誰かが間違えるたびに笑ってしまい、なかなか先へ進まない。
それでも何度も挑戦するうちに、少しずつ息が合っていく。
ついに納得のいく動画が撮れたときには、みんなの顔に達成感が浮かんでいた。
そして今度は、がくしのお願いから台本読みが始まった。
以前、自分の団体で上演した作品の一場面を、マキとくぼりおに演じてほしいという。
公演を観たことのある友人も、二人が演じる姿を見たいと期待を寄せた。
読み始めると、二人の息の合った掛け合いから、以前の公演とはまた違う魅力が生まれていく。
読み終わった瞬間、がくしと友人から「めっちゃいいー!!!」と大きな歓声と拍手が上がった。
すっぱいお菓子に顔をしかめたがくしが、今度は二人の芝居に目を輝かせている。
ダンスでは何度も失敗して笑い、台本読みでは思いがけない演技に感動した。
どれも一人では味わえなかった時間だった。
最初はたった一つのすっぱいお菓子を誰が引くかで騒いでいたのに、帰る頃には、みんなでひとつのものを作り上げた喜びが残っていた。
何度も笑って、何度もやり直して、最後には拍手を送り合う。
そんな一体感が、金曜日のラウンジをいつもより少しあたたかくしていた。
