10月26日の物語
「生き急いでいる奴は結婚できない」
月曜日のラウンジで、そんな妙に説得力のある名言が生まれた。
もっとも、話していたのは本当の人生ではなく、人生ゲームの中でのことだった。
シェアハウスにみんなが集まり始めて、もうすぐ一年。
「人生って早いね」という何気ない会話から、けんじ、せいと、うめしゅーと友人たちは、人生ゲームを始めることになった。
ただし、普通には遊ばない。
止まったマスの出来事を、即興芝居で演じながら進む特別ルールだ。
早々に靴を奪われ、最後まで裸足で生きることになった工場パティシエのせいと。
JOYSOUNDの採点のモノマネを延々と披露する佐々木小次郎のけんじ。
借金まみれになりながら株で大逆転し、なぜか火星に家を買ううめしゅー。
誰かの人生が思わぬ方向へ転がるたび、笑い声が止まらない。
堅実に平社員から社長まで昇り詰めた友人が優勝するかと思いきや、最後に勝ったのは、知らぬ間に幸運を積み重ねていた部長のけんじだった。
そんな波瀾万丈の人生を楽しむ前には、もっと小さな冒険もあった。
うめしゅーが持ってきたのは、ネジを巻くとぴょんぴょん進むドラクエのスライムのおもちゃ。
「どこまで進むかみんなで予想しよう!」
そう言って始まったスライムレースだったが、当のスライムはまっすぐ進む気などないらしい。
突然Uターンして戻ってくる姿に、みんなは子どもの頃のように夢中になって笑った。
さらに、先日誕生日を迎えた友人を祝うひと幕も。
火の代わりにスマホのライトでケーキを照らし、息を吹きかけるタイミングに合わせて明かりを消すことにした。
ところが、これがなかなかうまくいかない。
何度やっても息と光が噛み合わず、失敗するたびに笑いが起きた。
立派な演出とは言えなかったけれど、何度もやり直した分だけ、忘れられないお祝いになった。
思いどおりに進まないスライムも、予定外の人生を歩むゲームの登場人物も、なかなか消えない誕生日の明かりも。
この夜は、うまくいかないことほど面白かった。
もうすぐ一年。
振り返れば、きっと思いがけない出来事ばかりだったのだろう。
人生ゲームでは誰が勝つか最後までわからなかったけれど、今日ここに集まって笑い合えたことだけは、誰にとっても嬉しい出来事だった。
そんな月曜日の夜は、何度も消し損ねた小さな光のように、あたたかな余韻を残していた。
