top of page

2月23日の物語

  • 2月24日
  • 読了時間: 2分

ラウンジに集まったのは、うめしゅー、はる、けんじ、せいと。

そこへそれぞれの友人たちが加わり、穏やかなざわめきが広がっていた。


うめしゅーが、静かに短冊を配る。

「友人が大怪我をしてさ。みんなでお見舞いの言葉を書いてほしい。」

その人を知っている人も、知らない人も、迷いなくペンを取った。

励ましの言葉。冗談まじりのメッセージ。

「早くまた一緒に笑おう」という未来の約束。


さながら、ギブスに落書きをする学生のように、短冊はあたたかい文字で埋まっていく。

その様子を見ながら、うめしゅーは少しだけ目を潤ませていた。

祈りは目に見えないけれど、確かにそこにあった。


ひと段落すると、はるとはるの友人がギターを手に取る。

静かに始まった弾き語り。

レミオロメンの「粉雪」がラウンジに響く。


「加湿器の湯気、雪みたいだね」

誰かのその一言で、景色が変わった。

白く立ちのぼる湯気が、ほんとうに雪のように見える。

音楽は、空間の温度まで変えてしまう。

その瞬間、みんなの目に同じ雪景色が映っていた。


やがて、友人側からふと声が上がる。

「お芝居が見たい。」

住人たちは、はっとする。今日はまだ芝居をしていない。


即興エチュードが始まる。


花粉症に苦しむせいとが花粉役。

人間役にけんじ。

免疫役にはる。

演出はうめしゅー。


花粉と仲良くしたいけんじを、「危険だから」と必死に止めるはる。

物語は大きく広がりそうで――思いのほか、あっさり終わる。


一瞬の静寂のあと、うめしゅーを中心に大反省会が開かれる。


「あそこ、もっと膨らませられたよね」

「花粉の動機が弱かったかも」


真剣な言葉が飛び交う。

けれど、その目は輝いていた。


うまくいったかどうかより、“芝居をした”という事実がうれしい。

自由に過ごしている夜のはずなのに、ちゃんと役者としてそこに立っていた。


祈りも、音楽も、即興も。


静かな優しさと、熱のこもった反省が同じ空間にある夜。

ラウンジには今日も、確かに“表現する人たち”の灯りがともっていた。

 
 

最新記事

すべて表示
5月29日の物語

雨上がりのようなやわらかい空気が、ラウンジに流れていた。 「初めましての人もいるし、もっとみんなのこと知りたいな」 りのが棚から取り出したのは、『佐藤です。好きなおにぎりの具は梅です。』というゲームだった。 お題に答え、その答えを今度はみんなで当てる。たったそれだけなのに、不思議と人柄が滲み出る。 好きなもの。苦手なもの。思いがけないこだわり。 一巡終わる頃には、「そんな一面あったんだ」と笑い声が

 
 
5月28日の物語

ラウンジに降りてきたみやびとなつとすぎちゃんは、最初に少しだけ背筋を伸ばした。 床には、たいがが置いていたチラシが散乱している。 けれど、その場には誰もいない。 普段は閉まっているラウンジのドアも少しだけ開いていた。 「……不審者?」 誰かがそう呟いた瞬間、その説が妙に有力になってしまう。 三人は護身用として、殺陣練習用の刀をそれぞれ手元に置き始めた。 友人が遊びに来る気配がすると、すぐに刀を持っ

 
 
5月26日の物語

火曜日のラウンジには、いつもの笑い声があった。 でもその奥に、少しだけ“終わり”の気配が混ざっていた。 この日、えさっしーはこのシェアハウスを旅立つ。 だからまずは、えさっしーのやりたいことを全部やろう、という話になった。 机の上には、次々とボードゲームが広がっていく。 最初に始まったのは『答えを合わせましょうゲーム』。 価値観を揃える、シンプルだけど妙に盛り上がるゲームだった。 「好きなおにぎり

 
 
bottom of page