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5月29日の物語

5月30日
読了時間: 3分

雨上がりのようなやわらかい空気が、ラウンジに流れていた。


「初めましての人もいるし、もっとみんなのこと知りたいな」

りのが棚から取り出したのは、『佐藤です。好きなおにぎりの具は梅です。』というゲームだった。


お題に答え、その答えを今度はみんなで当てる。たったそれだけなのに、不思議と人柄が滲み出る。

好きなもの。苦手なもの。思いがけないこだわり。

一巡終わる頃には、「そんな一面あったんだ」と笑い声が増えていた。


「もう一回やりたい!」

友人の一言で二巡目が始まる。

今度はエピソードトーク禁止。


けれど食べ物のお題が出るたび、誰かが少しだけ語りたそうな顔をしてしまう。結局は雑談へ脱線していき、ゲームと会話の境界は曖昧になっていった。


その後、れみーが「何か演じられるゲームないかな」と棚を探し始める。

りのが見つけたのは『笑ってはいけない音読』だった。


議員風に。

お坊さんのように。


けんじが淡々と演じるほど面白くなり、みんな耐えきれず吹き出してしまう。


「人間五割、犬五割」

その文字を見ただけで笑い始めるりの。


間髪入れずに、れみーが「ワン!」と吠える。

その瞬間、ラウンジのあちこちから笑いがこぼれた。


笑わせようとして、自分が先に笑ってしまう。

そんな失敗さえ愛おしい時間だった。


やがて話題は、先週完成した脚本リレーへ移る。

れみーの怪談話をきっかけに、みんなで台本を読み始めた。


初めて読む人も多かったはずなのに、台詞が交わされるたび登場人物たちが自然と息づいていく。


「実はここの展開で悩んだんだよね」

「前の曜日の流れを拾いたくて」

物語の裏側にあった時間まで語られ始める。


書いた人の数だけ物語があり、その話を聞くたびに脚本は少しずつ厚みを増していった。


「来月は参加してみたいな」

そんな声が上がった時、りのたちは嬉しそうに顔を見合わせていた。


帰る時間が近づく頃。

今度は友人の一人が「刀を教えてほしい」と言った。

そこから始まった、けんじの小さな殺陣教室。

りのもれみーも加わり、刀の握り方や振り方を教わる。


みんな真剣だった。

わからないことを尋ね、試して、また振る。

教える側のけんじが驚くほど、吸収が早かった。


まだ続けたかった。

もう少しだけ練習したかった。

けれど時計は無情に終わりを告げる。


「またやろう」

誰かのその言葉に、全員がうなずいた。


初めましてだった人たちも、帰る頃には同じ時間を共有した仲間のようになっていた。

笑いながら物語を読み、刀を振り、少しずつお互いを知っていく。


その積み重ねが、今日もラウンジを静かにあたためていた。

 
 

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