5月29日の物語
- 21 時間前
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雨上がりのようなやわらかい空気が、ラウンジに流れていた。
「初めましての人もいるし、もっとみんなのこと知りたいな」
りのが棚から取り出したのは、『佐藤です。好きなおにぎりの具は梅です。』というゲームだった。
お題に答え、その答えを今度はみんなで当てる。たったそれだけなのに、不思議と人柄が滲み出る。
好きなもの。苦手なもの。思いがけないこだわり。
一巡終わる頃には、「そんな一面あったんだ」と笑い声が増えていた。
「もう一回やりたい!」
友人の一言で二巡目が始まる。
今度はエピソードトーク禁止。
けれど食べ物のお題が出るたび、誰かが少しだけ語りたそうな顔をしてしまう。結局は雑談へ脱線していき、ゲームと会話の境界は曖昧になっていった。
その後、れみーが「何か演じられるゲームないかな」と棚を探し始める。
りのが見つけたのは『笑ってはいけない音読』だった。
議員風に。
お坊さんのように。
けんじが淡々と演じるほど面白くなり、みんな耐えきれず吹き出してしまう。
「人間五割、犬五割」
その文字を見ただけで笑い始めるりの。
間髪入れずに、れみーが「ワン!」と吠える。
その瞬間、ラウンジのあちこちから笑いがこぼれた。
笑わせようとして、自分が先に笑ってしまう。
そんな失敗さえ愛おしい時間だった。
やがて話題は、先週完成した脚本リレーへ移る。
れみーの怪談話をきっかけに、みんなで台本を読み始めた。
初めて読む人も多かったはずなのに、台詞が交わされるたび登場人物たちが自然と息づいていく。
「実はここの展開で悩んだんだよね」
「前の曜日の流れを拾いたくて」
物語の裏側にあった時間まで語られ始める。
書いた人の数だけ物語があり、その話を聞くたびに脚本は少しずつ厚みを増していった。
「来月は参加してみたいな」
そんな声が上がった時、りのたちは嬉しそうに顔を見合わせていた。
帰る時間が近づく頃。
今度は友人の一人が「刀を教えてほしい」と言った。
そこから始まった、けんじの小さな殺陣教室。
りのもれみーも加わり、刀の握り方や振り方を教わる。
みんな真剣だった。
わからないことを尋ね、試して、また振る。
教える側のけんじが驚くほど、吸収が早かった。
まだ続けたかった。
もう少しだけ練習したかった。
けれど時計は無情に終わりを告げる。
「またやろう」
誰かのその言葉に、全員がうなずいた。
初めましてだった人たちも、帰る頃には同じ時間を共有した仲間のようになっていた。
笑いながら物語を読み、刀を振り、少しずつお互いを知っていく。
その積み重ねが、今日もラウンジを静かにあたためていた。
