top of page

5月28日の物語

5月29日
読了時間: 2分

ラウンジに降りてきたみやびとなつとすぎちゃんは、最初に少しだけ背筋を伸ばした。


床には、たいがが置いていたチラシが散乱している。


けれど、その場には誰もいない。

普段は閉まっているラウンジのドアも少しだけ開いていた。


「……不審者?」


誰かがそう呟いた瞬間、その説が妙に有力になってしまう。


三人は護身用として、殺陣練習用の刀をそれぞれ手元に置き始めた。


友人が遊びに来る気配がすると、すぐに刀を持って入口へ向かう。


「何者だ……?」


真顔で問いかける三人。


もちろん現れたのはいつもの友人たちで、むしろ迎えられた側の方が驚いていた。


そんなふうに始まった夜は、どこかおかしな緊張感をまといながらも、いつも通り穏やかだった。


談笑したり、音楽の話をしたりしている最中、ふいに友人の一人が声を上げた。


「床、濡れてる!」


みんなで集まって確認すると、確かに柱の近くに小さな水たまりができている。


「なんで?」


痕跡をたどるように視線を上げていくと、水は柱を伝い、天井付近へ続いていた。


その先には空調設備。


すると、建築関係の仕事をしている友人が静かに言った。


「冷媒管ですね。たぶんそこに水が溜まって漏れてます」


一同が感心する。


「なんで分かるの!?」

「すごい!」


普段は何気なく話している友人が、ふとした瞬間に見せる専門知識。


その頼もしさに、みんなが素直に驚いていた。


夜が深まる頃、なつが前から言いたかったことを口にする。


「接吻、歌いたい!」


以前、すぎちゃんとみやびが歌っていた動画を見てから、ずっと一緒に歌いたかったらしい。


せっかくだから他の曲も試してみようと、

『Don't You Worry 'Bout A Thing』や、

『ゼロ・トゥ・ヒーロー』、

『Just the Two of Us』にも挑戦してみる。


けれど、どれも思った以上に難しい。


音を追いかけながら笑って、途中で止まって、またやり直す。


そうして巡り巡って、結局たどり着いたのは『接吻』だった。


三人の声が重なる。


完璧ではない。

でも、だからこそ今の時間がそのまま残るような歌だった。


友人たちは正面で静かに耳を傾けていた。


歌い終わると、自然と拍手が起こる。


その拍手は、上手だったからなのはもちろん、きっと一緒にその時間を楽しんでいたからだった。


ラウンジには、音楽の余韻がゆっくりと漂っていた。


少しムードがあって、でもどこかあたたかい。


不審者騒動も、水漏れ騒動も、みんなが揃えば笑いに変わる夜だった。

 
 

最新記事

すべて表示
9月16日の物語

雨のせいか、この日のラウンジにはいつもよりゆっくりとした時間が流れていた。 それでも、誰かの隣には自然と誰かがいて、話し声が静かに途切れることはなかった。 ゲームにも少し飽きてきた頃、まさき、たいが、いっちーの三人はダーツを始めることに。 最初こそ点数を数えていたものの、次第に面倒になり、なぜか「最初にブルへ入れた人が負け」という男気ダーツが始まった。 真剣にブルを狙いながら「入るな!」と叫ぶ、矛

 
 
9月15日の物語

この日のラウンジは、みずきち、がくし、はるきと、遊びに来た友人たちでゆったりと始まった。 大勢で囲むような賑やかさとは少し違う。 それでも、誰かが何かを始めれば、自然とみんなの視線がそこへ集まり、気づけば笑い声が重なっている。 そんな近い距離感の夜だった。 始まりは、がくしが一昨日行われた「メロい先輩選手権」を振り返ったことから。 「そもそも、メロさとは何か」 答えを探すべく、みずきちとはるきに“

 
 
9月14日の物語

久しぶりに顔を見せてくれた友人も多く、この日のラウンジはあちこちで話が弾んでいた。 そんな中、りのと友人たちが始めたのは、おじさん構文を作るゲーム。 手札を組み合わせるたびに、絶妙に嫌な距離感のメッセージが次々と誕生する。 読み上げるたびに悲鳴が上がり、それ以上の笑い声が返ってきた。 やがて「最高の文を考えよう!」と、勝ち負けそっちのけで全員の知恵を集め始める。 そして完成したのが、 「オジサンサ

 
 
bottom of page