5月28日の物語
ラウンジに降りてきたみやびとなつとすぎちゃんは、最初に少しだけ背筋を伸ばした。
床には、たいがが置いていたチラシが散乱している。
けれど、その場には誰もいない。
普段は閉まっているラウンジのドアも少しだけ開いていた。
「……不審者?」
誰かがそう呟いた瞬間、その説が妙に有力になってしまう。
三人は護身用として、殺陣練習用の刀をそれぞれ手元に置き始めた。
友人が遊びに来る気配がすると、すぐに刀を持って入口へ向かう。
「何者だ……?」
真顔で問いかける三人。
もちろん現れたのはいつもの友人たちで、むしろ迎えられた側の方が驚いていた。
そんなふうに始まった夜は、どこかおかしな緊張感をまといながらも、いつも通り穏やかだった。
談笑したり、音楽の話をしたりしている最中、ふいに友人の一人が声を上げた。
「床、濡れてる!」
みんなで集まって確認すると、確かに柱の近くに小さな水たまりができている。
「なんで?」
痕跡をたどるように視線を上げていくと、水は柱を伝い、天井付近へ続いていた。
その先には空調設備。
すると、建築関係の仕事をしている友人が静かに言った。
「冷媒管ですね。たぶんそこに水が溜まって漏れてます」
一同が感心する。
「なんで分かるの!?」
「すごい!」
普段は何気なく話している友人が、ふとした瞬間に見せる専門知識。
その頼もしさに、みんなが素直に驚いていた。
夜が深まる頃、なつが前から言いたかったことを口にする。
「接吻、歌いたい!」
以前、すぎちゃんとみやびが歌っていた動画を見てから、ずっと一緒に歌いたかったらしい。
せっかくだから他の曲も試してみようと、
『Don't You Worry 'Bout A Thing』や、
『ゼロ・トゥ・ヒーロー』、
『Just the Two of Us』にも挑戦してみる。
けれど、どれも思った以上に難しい。
音を追いかけながら笑って、途中で止まって、またやり直す。
そうして巡り巡って、結局たどり着いたのは『接吻』だった。
三人の声が重なる。
完璧ではない。
でも、だからこそ今の時間がそのまま残るような歌だった。
友人たちは正面で静かに耳を傾けていた。
歌い終わると、自然と拍手が起こる。
その拍手は、上手だったからなのはもちろん、きっと一緒にその時間を楽しんでいたからだった。
ラウンジには、音楽の余韻がゆっくりと漂っていた。
少しムードがあって、でもどこかあたたかい。
不審者騒動も、水漏れ騒動も、みんなが揃えば笑いに変わる夜だった。
