3月12日の物語
この日のラウンジは、絵と演技がゆっくり行き来する夜だった。
はるきのスケッチブックをみんなで見ていたところから始まる。
ページをめくるたびに現れる絵の上手さに、友人たちが驚く。
「すごいね。」
そんな声が上がる中、すぎちゃんが少し誇らしげに言う。
「おれ、絵上達したよ!」
それなら、と友人たちがお題を出し、はるき・すぎちゃん・れみーの3人で画力チェックが始まった。
最初のお題は「バイキンマン」。
3人ともそれぞれ違う視点で特徴を捉えた絵を描き上げる。
「3つ足して割ったらちょうどいいかも。」
友人のその一言に一度はみんな納得するが、最終的に一番人気だったのは、れみーのバイキンマンだった。
その後は似顔絵大会に。
デフォルメ調やリアル調など、それぞれの個性が光る絵が並ぶ。
ただひとつだけ問題があった。
すぎちゃんが描いたはるきの似顔絵。
なぜか、いつの間にか『進撃の巨人』に登場するエルヴィン団長になっていた。
「全然違うじゃん!」
笑いが起こりながら、
画家への道のりはまだ長そうだ、という結論になった。
ひとしきり笑ったあと、話題は演技へ。
れみーが、今月末に出演する朗読劇について話し始める。
幼女から老婆まで、さまざまな声を演じ分ける役らしい。
「どうやってキャラクターを作ればいいか悩んでて…」
そこで、はるきがひとつの練習方法を提案する。
友人たちに紙を配り、年齢・職業・性格を書いてもらう。
それをくじ引きのように引いて、即興でキャラクターを作りながら台本を演じるというものだった。
順番をじゃんけんで決め、最初はれみー。
引いた職業は、まさかの「ミッキーマウス」。
「これは闇鍋ゲームになるぞ。」
みんなで笑いながらも、れみーはセリフを読み、キャラクターを想像して演じ始める。
同じセリフでも、年齢や性格が変わるだけで空気がまったく変わる。
はるきがディレクションを入れ、すぎちゃんや友人たちが見守り、応援する。
もう一度演じてみると、さっきとは全然違う人物がそこに現れる。
次ははるき、その次はすぎちゃん。
順番に演じていくうちに、場の集中も少しずつ深まっていった。
「セリフを読み解くのって面白いよね。」
はるきがそう言うと、みんな自然と頷いていた。
それを見ていた友人がぽつりとつぶやく。
「いいな。」
普段とは違う一面を見られること。
そして、その場で新しいものが生まれていくこと。
その面白さが、ラウンジにゆっくり広がっていた。
この日は、最初は和気あいあいとした会話から始まり、それぞれの時間を楽しみながらも、どこか一つにつながっているような空気だった。
笑いと集中が行き来する、やわらかくて、少し特別な夜だった。
