3月25日の物語
雨の音が、ラウンジの外でやわらかく続いていた。
この日は人も少なく、中央に集まった声が静かに広がっていく。
はるき、さのちゃん、たいが。
その輪の中で始まったのは、「ことば落とし」という遊びだった。
決められたワードを、3分間のトークの中に自然に紛れ込ませる。
しかも、それを悟られてはいけない。
話しながら、隠す。
隠しながら、伝える。
その微妙なバランスが、言葉を少しだけ緊張させる。
はるきは、丁寧に物語を組み立てていく。
流れは美しく、まとまりもある。
けれど、整いすぎたがゆえに、どこかで違和感が生まれ、最後には見抜かれてしまう。
さのちゃんは、言葉を滑らせるように使い、自然にワードを散りばめていく。
気づいたときには、どれが本物で、どれが偽りか分からなくなっていた。
最後の絞り込みで、さのちゃんが勝ち抜ける。
たいがは、食べ物の話の中に指定ワードの「スカーフ」を忍ばせようとする。
母の料理の話から、お弁当の話へ。
流れはよかったはずなのに、
「ハンカチやスカーフで包んで…」
その一言で、空気が止まる。
そしてすぐに、
「包まないでしょ!」
と笑いが重なる。
崩れた流れごと、場はやさしくほどけていった。
そのあと始まったのは、「カタカナーシ」とお絵描きを組み合わせた遊び。
言葉だけでは足りないとき、絵で補う。
絵でも足りないとき、身体が動く。
はるきの出した「デニッシュ」というお題に、全員が少しずつ行き詰まる。
考えながら、止まりながら、それでもなんとか近づこうとする。
その途中で、さのちゃんが崩れたアンパンマンの絵を描き始める。
たいがは、なぜかコンビニに入る芝居を始める。
少しずつ、本来の目的から離れていく。
「……お題なんだっけ?」
その一言で、また笑いが広がる。
雨の音は変わらず続いている。
大きな出来事はないけれど、同じ場所で、同じ時間を過ごして、同じことで笑っている。
そのことが、ただ静かに心地よかった。
この日のラウンジには、外の雨とは違う、やわらかな温度が残っていた。
