top of page

3月26日の物語

  • 3月27日
  • 読了時間: 2分

ラウンジの空気は、音楽に少しだけ引っ張られていた。


流れていたのは、Vaundyの「Tokimeki」。

映像をぼんやり眺める中で、誰かがふと「オズの魔法使いみたいだね」と呟く。


その一言が、静かに火を灯した。


「Wickedの映画は観たけど、元の話は知らないんだよね」

すぎちゃんのその言葉をきっかけに、はるきの中にあった熱が、ゆっくりと立ち上がる。


はるきは、物語のあらすじをなぞりながら、その奥にある意味や、重なり合う視点の面白さを、丁寧に説明していく。

ネタバレにならないよう気を配りながら、それでも伝えたいものが、言葉の端々に滲んでいた。


同じ熱を持つ友人が、その話に深く頷き、二人の間に小さな共鳴が生まれる。


周りにいたれみーやすぎちゃんたちは、その熱量に少し驚きながらも、どこか楽しそうに耳を傾けていた。


「映画、観たいなぁ」


誰かのその一言が、静かに残る。


やがて話題は変わり、今週末の出番でフリートークがあるれみーの、トークスキル向上のために、「ことば落とし」が始まった。


話しながら隠す、という不思議な緊張感。


れみーは「座右の銘」というテーマの中で、犬や猫、シールやクローバーと話題を広げていく。

きれいにまとまったはずの3分間。

けれど、その中にあった違和感は見逃されず、

キーワードは言い当てられてしまう。


次に話した友人たちは、自然な流れの中に「めんたいこ」を忍ばせていた。


あまりに自然すぎて、誰も疑わなかったその言葉が明かされた瞬間、場は一斉に立ち上がり、拍手に変わる。

遊びの中に、ほんの少しの驚きと感動が混ざる。


すぎちゃんとはるきは、

「無人島に持っていくなら」という話の中に、違和感なく“ゲームセンター”を差し込む。


ありえないはずのものが、不思議と成立してしまうその瞬間に、言葉の面白さがにじんでいた。


負けたのが悔しいれみーがリベンジを申し出て、最後は、れみーと友人が並んで挑戦する。


「好きな食べ物」の話の中に、そっと紛れ込ませた「織田信長」。

無理があるはずなのに、なぜか成立してしまう不思議。

その成功に、全員が少しだけ安心したように笑った。


序盤の静かな語りと、後半の軽やかな言葉遊び。


同じ場所にいながら、温度の違う時間がゆるやかに重なっていく。


そのどちらにも共通していたのは、誰かの言葉に、ちゃんと耳を傾ける空気だった。


この日のラウンジには、言葉がやわらかく行き交う、静かなあたたかさが残っていた。

 
 

最新記事

すべて表示
5月29日の物語

雨上がりのようなやわらかい空気が、ラウンジに流れていた。 「初めましての人もいるし、もっとみんなのこと知りたいな」 りのが棚から取り出したのは、『佐藤です。好きなおにぎりの具は梅です。』というゲームだった。 お題に答え、その答えを今度はみんなで当てる。たったそれだけなのに、不思議と人柄が滲み出る。 好きなもの。苦手なもの。思いがけないこだわり。 一巡終わる頃には、「そんな一面あったんだ」と笑い声が

 
 
5月28日の物語

ラウンジに降りてきたみやびとなつとすぎちゃんは、最初に少しだけ背筋を伸ばした。 床には、たいがが置いていたチラシが散乱している。 けれど、その場には誰もいない。 普段は閉まっているラウンジのドアも少しだけ開いていた。 「……不審者?」 誰かがそう呟いた瞬間、その説が妙に有力になってしまう。 三人は護身用として、殺陣練習用の刀をそれぞれ手元に置き始めた。 友人が遊びに来る気配がすると、すぐに刀を持っ

 
 
5月26日の物語

火曜日のラウンジには、いつもの笑い声があった。 でもその奥に、少しだけ“終わり”の気配が混ざっていた。 この日、えさっしーはこのシェアハウスを旅立つ。 だからまずは、えさっしーのやりたいことを全部やろう、という話になった。 机の上には、次々とボードゲームが広がっていく。 最初に始まったのは『答えを合わせましょうゲーム』。 価値観を揃える、シンプルだけど妙に盛り上がるゲームだった。 「好きなおにぎり

 
 
bottom of page