3月2日の物語
この日は、ラウンジが少しだけ劇場になった日だった。
うめしゅーの「昔やったエチュードをやろう」という一言から、2本の物語が生まれた。
笑い声の中に、ふっと集中が混ざる。そんな始まりだった。
最初にエチュードに挑戦したのは、いっちーと、いっちーの俳優友だちのペア。
タイトルは「レジスター」。
レジ早打ち世界大会の決勝戦。
優勝したのはいっちー。けれど失格。
代わりに優勝したのは、いっちーの友だち。
それから10年後。
舞台はスーパーのレジ。
再会した2人は、あのときの続きを、どんな顔で受け止めるのか。
悔しさは消えているのか。
それとも、まだどこかに残っているのか。
軽快なやりとりの中に、ほんの少しの熱がにじむ。
友人たちもお客さん役で加わり、舞台は自然と広がっていった。
最後までやり切った2人は、物語の余韻をまとったまま、楽しそうに笑っていた。
次にエチュードに挑戦したは、さのちゃんとせいとのペア。
タイトルは「ゴッホ」。
登場するのは、冷蔵庫の在庫管理に使われる鉛筆と消しゴム。
鉛筆をせいと、消しゴムをさのちゃんが演じる。
削られる鉛筆。
すり減る消しゴム。
お互いがいるからこそ、役目を果たせる存在。
何気ないやりとりの中に、支え合う関係が浮かび上がる。
気づけば友人たちは手を止め、静かに見入っていた。
終わった瞬間、自然と拍手が生まれる。
うめしゅーが言う。
「今年分の“良かった”を言い切った。」
その言葉に、2人は満足そうにうなずいた。
確かに、そこには“良い時間”があった。
エチュードの余韻が残る中、いっちーの俳優仲間が帰ることに。
そのとき、いっちーがふとこぼす。
「明日、彼の誕生日なんだよ。」
その一言で、空気がまたやわらかく動く。
うめしゅーが寄せ書きを提案し、友人たちにも声をかける。
よく知る人も、今日初めて会った人も、
それぞれの言葉を残していく。
紙の上に重なった文字は、
その人へのお祝いであると同時に、
この場所のあたたかさの証のようでもあった。
人数は多く、あちこちで自由に遊ぶ姿があった。
放課後、誰かの家に集まったみたいな空気。
それでも、エチュードのときは一つになり、
寄せ書きのときは自然と輪になる。
自由で、ばらばらで、でもちゃんとつながっている。
この日のラウンジには、
物語と優しさが、静かに同居していた。
