4月14日の物語
ラウンジには、その日、やわらかな“可愛い”が満ちていた。
誰かの一言から始まった会話は、気づけばいくつもの話題を渡り歩いている。
推しの話、化粧品の話、服の話。
そして、ふとした人生の話まで。
かりんが語るアイドルの話に、みんなが自然と身を乗り出す。
流れるMVを見ながら、
「あの子かわいい」「名前なんだっけ」
小さな声が重なって、それぞれの“好き”が芽を出していく。
まるで、放課後の教室の隅。
秘密でもないけれど、どこか大切にしたくなる時間だった。
やがて、その“可愛い”は、動き出す。
音楽に合わせて、身体を揺らす。
教わる振り付けに戸惑いながらも、少しずつ揃っていく動き。
「右手が出ない!」
「いけるかも!」
笑い声と一緒に、リズムが場をひとつにしていく。
最後に踊りきった瞬間、ほんの少しだけ、本物に近づいた気がした。
「うちら、アイドルじゃん」
その言葉に、照れた笑顔が返ってくる。
誰かに見せるためというより、その場にいる誰かと楽しむための輝きだった。
そして、もうひとつの“可愛い”を極めるエチュード。
それは、少しだけ不思議な形をしていた。
「トイレのミステリー〜詐欺師とアネゴとおしゃべりオカマ〜」
「ドキッ!禁断の恋が始まる焼肉屋」
奇妙で、どこか愛らしい物語たち。
展開を探りながら、言葉と間を手繰り寄せていく。
うまくいきそうで、いかない瞬間。
そのもどかしささえ、どこか楽しい。
ふいに差し込まれる、かりんの言葉。
「その飲み物、毒入ってるよ」
物語の外側からの声が、新しい景色を作り出す。
正解はない。
でも、だからこそ、広がっていく。
この日のラウンジは、終始、熱を帯びていた。
動き、笑い、考えて、また動く。
“可愛い”という言葉ひとつから、こんなにもいろんな形が生まれることを、誰もが少しだけ実感していた。
その熱の中に、確かにやさしい温度も混ざっていた。
