4月14日の物語
- 4月15日
- 読了時間: 2分
ラウンジには、その日、やわらかな“可愛い”が満ちていた。
誰かの一言から始まった会話は、気づけばいくつもの話題を渡り歩いている。
推しの話、化粧品の話、服の話。
そして、ふとした人生の話まで。
かりんが語るアイドルの話に、みんなが自然と身を乗り出す。
流れるMVを見ながら、
「あの子かわいい」「名前なんだっけ」
小さな声が重なって、それぞれの“好き”が芽を出していく。
まるで、放課後の教室の隅。
秘密でもないけれど、どこか大切にしたくなる時間だった。
やがて、その“可愛い”は、動き出す。
音楽に合わせて、身体を揺らす。
教わる振り付けに戸惑いながらも、少しずつ揃っていく動き。
「右手が出ない!」
「いけるかも!」
笑い声と一緒に、リズムが場をひとつにしていく。
最後に踊りきった瞬間、ほんの少しだけ、本物に近づいた気がした。
「うちら、アイドルじゃん」
その言葉に、照れた笑顔が返ってくる。
誰かに見せるためというより、その場にいる誰かと楽しむための輝きだった。
そして、もうひとつの“可愛い”を極めるエチュード。
それは、少しだけ不思議な形をしていた。
「トイレのミステリー〜詐欺師とアネゴとおしゃべりオカマ〜」
「ドキッ!禁断の恋が始まる焼肉屋」
奇妙で、どこか愛らしい物語たち。
展開を探りながら、言葉と間を手繰り寄せていく。
うまくいきそうで、いかない瞬間。
そのもどかしささえ、どこか楽しい。
ふいに差し込まれる、かりんの言葉。
「その飲み物、毒入ってるよ」
物語の外側からの声が、新しい景色を作り出す。
正解はない。
でも、だからこそ、広がっていく。
この日のラウンジは、終始、熱を帯びていた。
動き、笑い、考えて、また動く。
“可愛い”という言葉ひとつから、こんなにもいろんな形が生まれることを、誰もが少しだけ実感していた。
その熱の中に、確かにやさしい温度も混ざっていた。
