4月30日の物語
- 5月1日
- 読了時間: 2分
ラウンジに降りてきたれみーは、新しく手に入れたトイカメラを、嬉しそうに取り出した。
つるんとしたフォルムは「写るんです」によく似ているけれど、画面はなく、記録は静かにSDカードへと残るらしい。
「みんなを撮りたい!」と充電を始めるその姿に、小さな期待が灯る。
けれど、時間はゆるやかに別の方へ流れていく。
東西のテーマパークの話題が広がり、好きだったアトラクションやショーの記憶が、ぽつぽつと灯るように語られる。
はるきはその中で、建物の意味や背景の設定を静かに語り、見えないはずの物語をこの場に浮かび上がらせた。
聞く側は、その奥行きに自然と引き込まれていく。
やがて話は音楽へ。
好きなパレードやディズニーソングの流れから、「星に願いを」を英語で歌うことになった。
最初に決めたのは、
メインをれみー、上ハモをすぎちゃん、下ハモをはるき。
けれど、いざ声を重ねてみると、思うように噛み合わない。
音は合っているはずなのに、どこか浮いてしまう感覚。
それぞれが自分のパートに集中するほど、全体がぼやけていく。
「一回、変えてみようか」
れみーとはるきを入れ替える。
すると、不思議と輪郭が整い始める。
さらにすぎちゃんとれみーも入れ替え、
メインはるき、上ハモれみー、下ハモすぎちゃんに落ち着いた。
それでも簡単ではない。
英語の発音に意識を取られたり、ハモりにつられてしまったり、呼吸のタイミングがずれてしまったり。
小さなつまずきを一つずつ確かめるように、何度も同じフレーズを繰り返す。
周りからの「いいね」「今のよかった」という声が、少しずつ背中を押していく。
やがて、三つの声がぴたりと重なる瞬間が訪れる。
その一瞬のために、また繰り返す。
時間はあっという間に過ぎていき、「もうこんな時間なの?」と笑いながらも、どこか満ち足りた空気が残った。
「完成したら、SNSにあげよう」
その約束が、静かに未来へ置かれる。
結局、れみーのカメラは一度も使われなかった。
けれど、その日を思い出すとき、きっと誰も、写真のことは気にしない。
重なりきらなかった声も、重なった一瞬も、すべてが、そのままの形でやわらかく胸に残っていた。
