4月4日の物語
- 4月5日
- 読了時間: 2分
ラウンジに入った瞬間、今日は特別な日だとすぐにわかった。
飾り付けの色と、そこにいる人たちの表情が、少しだけいつもより明るい。
シェアハウスの住民たちが、たいがとけんじのために用意した、バースデーミッションの張り紙が壁に貼られている。
ミッションの最初は、自己紹介動画の撮影から始まった。
ぎこちなく言葉を探していたふたりも、カメラを向けられるうちに、だんだんと調子を掴んでいく。
気づけば、ちょっとした企画動画のように、周りも巻き込みながら進んでいた。
次のヒントは「つまびくものの裏」。
言葉の意味に首を傾げるたいがの隣で、けんじはすぐに何かを掴んだように動き出す。
見つけた先にあった次のミッションは、うまい棒コーンポタージュ味を食べて、五七五で感想を言うというミッション。
うまい棒のコーナーを前にけんじは、「何味食べようかな〜」と天然発言を繰り出し、その場の空気がほどけた。
そして最後のミッション。
ラウンジに散らばった言葉を集め、それを使ってエチュードをする。
なつが無責任に「全部の言葉使えばいいじゃん」と言い、ふたりは少し笑いながら、それでも真正面から向き合う。
「かっこいいじゃん」
「運動神経よくて羨ましいわ」
「明るくていいよな」
断片だった言葉が、少しずつ繋がっていく。
うまくまとまらない時間さえも抱えながら、気づけば10分ほどの物語になっていた。
ミッションをクリアし、最後に開いたメモには「トイレを探せ」。
半信半疑で辿り着いた先、そこにあったQRコードを読み込むと、音楽が流れる。
みやびが作った、たいがとけんじのためのバースデーソング。
その完成度の高さに、そしてここまでやりきったふたりに、自然と拍手が起きた。
誰かが用意した仕掛けと、それに全力で応えたふたり。
そのやり取りごと、祝福になっていた。
そのあと始まったカタカナーシは、いつの間にか言葉を使わない遊びへと変わっていた。
ジェスチャーだけで伝え、そこに別の誰かが声をあてる。
「もうこれ、コトバナーシだね」
誰かがそう言って、また笑いが広がる。
伝わるかどうかのぎりぎりを楽しむような、不思議な一体感がそこにあった。
祝うために集まったはずの時間が、気づけば、みんなで遊ぶ時間になっている。
その自然な流れの中に、この場所らしさが静かに滲んでいた。
特別で、でもどこかいつも通りの夜。
ラウンジには、ちゃんと“祝われた時間”が残っていた。
