5月11日の物語
- 5月12日
- 読了時間: 2分
「昔、やり残したことってある?」
うめしゅーがそう言ったところから、その日のエチュードは始まった。
ただの即興劇ではない。
過去にできなかったことを、“今”やり直してみるための時間だった。
最初にせいとが話したのは、小学生の頃の後悔。
好きだった相手に、結局気持ちを伝えられなかったこと。
友人たちも役に入り、教室の空気が少しずつ作られていく。
懐かしい距離感。
言えそうで言えない沈黙。
せいとは、何度か言葉を探すように息を詰まらせながら、それでも最後にはちゃんと気持ちを口にした。
返ってきた優しい言葉を聞いた瞬間、その“生徒”の目が潤んでいた。
きっと、あの頃には出来なかった終わり方だった。
次はいっちー。
小学生の頃、本当はお腹が痛かったのに、保健室の先生へ言い出せなくて無理をしてしまい、子どもながらにしんどかったという話をしてくれた。
同級生役をうめしゅーと友人が、先生役をせいとが演じる。
「なんでもないです」って言ってしまいそうになる空気。
でも、今度はいっちーはちゃんと口にした。
「お腹、痛いです」
それだけの言葉なのに、言い終わった後の表情は少し違って見えた。
一皮むけた、という言葉が似合う顔だった。
うめしゅーは静かに笑って、
「これ、みんなやった方がいいよ」
と言った。
二人とも、その言葉に深く頷いていた。
その後は、うめしゅーによるインプロのワークショップ。
気を使いすぎてしまう二人のために、“芝居中に気を使わない”練習をするらしい。
突然、全然関係ないものに例えながら会話をしたり、二人芝居の途中で違和感を感じたら、誰かが手を叩いて止めたり。
真剣にやればやるほど、話はおかしな方向へ進んでいく。
感動的に始まりそうだった物語が、急に終わる。
普通の会話だったはずなのに、いつの間にか意味不明になる。
でも、それが妙に面白かった。
笑いながら見ていた友人たちも、気づけば参加している。
世間話みたいに始まった時間の中に、いつの間にか芝居が混ざっている。
「変」を面白がれる空気が、その場に自然と出来上がっていた。
上手くやることより、ちゃんと飛び込むこと。
そんなことを、みんなで少しずつ覚えていく夜だった。
