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5月14日の物語

5月14日
読了時間: 3分

ラウンジには、音楽の前の静かな雑談がよく似合う。


その日は、住民たちのニックネームの話から始まった。


雅が「ここでは“みやび”だけど、舞台では“みやびさま”とか“みやさま”って呼ばれることが多い」と話すと、

「みやさま、なんか良いね」

と友人たちが笑う。


れみーは、少し照れながら、

「昔、“レモンちゃん”って呼ばれてたことある。レモン好きだから」

と打ち明けた。


そこから自然に、好きな食べ物の話へと流れていく。


豆腐。

トマト。

チャーハン。

パフェ。


たったそれだけの話なのに、好きなものを語る声には、その人らしさがちゃんと滲む。


すぎちゃんが「セロリ好きなんだよね」と言った時には、雅が「セロリにピーナッツバターつけると美味しいよ」と教えていた。


「えぇ!?」

と驚く声。

けれど、誰かが一度“やってみたいかも”と言った瞬間、その場に小さな肯定が広がる。

そういう空気が、このラウンジにはよく似合っていた。


やがて話題は音楽へ移る。


相対音感を持つれみーを羨ましそうに見ながら、雅が言った。


「せっかくだし、みんなでハモりたい!」

その一言に、すぎちゃんもれみーも自然に頷く。


最初に挑戦したのは、『接吻 / Original Love』。


けれど、この曲が思った以上に難しかった。


リズムの入り方。

微妙な和音の揺れ。

少しズレるだけで、綺麗だったはずの音がほどけてしまう。


何度も録り直した。


「今の良かった?」

「ちょっと音割れしてるかも」

「サビ前、もう少し柔らかい方が綺麗?」


友人たちにも動画を聴き比べてもらいながら、少しずつ形を整えていく。


その時間は、歌っているというより、三人で一つの音を探しているようだった。


そして、納得のいく一本が完成すると、誰からともなく「もう一曲いけるでしょ!」という声が上がる。


ラウンジの開放時間は、残り一時間ほど。


次に選ばれたのは『Part of Your World』だった。


SNSで見つけた、女声ひとつと男声ふたつの海外カバー。

その響きを真似しながら、三人で音を重ねていく。


メイン。

上ハモ。

下ハモ。


声を重ねるたび、少しずつ輪郭が揃っていく。


けれど、本番で事件は起きた。

ハモりは綺麗なのに、全員の声量が強すぎて録音が音割れしていたのである。


「あぁ〜!!」

と崩れ落ちる三人。


それでも、歌が好きな人たちは切り替えが早い。

少し距離を取って、

少し声を抑えて、

もう一度。


すると今度は、不思議なくらい声が綺麗に混ざった。


21時が近づく頃。


完成した動画をみんなで覗き込みながら、

「良いじゃん!」

「これ好き!」

と何度も笑い合っていた。


帰り際、友人のひとりが言った。


「SNS上がるの楽しみにしてるね」


その言葉を聞いた瞬間、今日一日歌っていた時間が、ちゃんと誰かに届いていたのだと思えた。


ラウンジには、まだ少しだけ、歌い終わったあとの余韻が漂っていた。

 
 

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