top of page

5月15日の物語

  • 5月16日
  • 読了時間: 2分

その日のラウンジは、どこか“放課後”みたいな空気だった。


みずきちが、仕事でゲームマーケットに携わるという話をしていて、そこから自然と「せっかくだし、ボードゲームやろうよ」という流れになる。


最初に選ばれたのは、『インサイダー』。


箱だけは見たことがある。

でも、ちゃんと遊ぶのは全員ほぼ初めてだった。


ルールを確認しながら、探り探りゲームが始まる。


「生きてますか?」

「食べられますか?」

「見たことありますか?」

「値段、高いですか?」

「物理的に高いですか?」

「東中野にありますか?」


質問が飛ぶたび、みんな少しずつ真剣な顔になっていく。


答えはまだ霧の中だったのに、突然、れみーが顔を上げた。


「わかった! 電信柱だ!」


その瞬間、ラウンジが止まる。


「え、なんで!?!?」

「急すぎるって!」


あまりに鮮やかな正解に、全員が“れみーこそインサイダーなのでは”と疑い始める。

けれど、本当のインサイダーはみずきちだった。


本人ですら、予想外の速さに驚いていたらしい。

「そんな角度から来る!?」と、思わず笑っていた。


ひとつゲームを終える頃には、みんなすっかりボードゲームの空気に馴染んでいた。


次にみずきちとれみーが棚の前で悩みながら選んだのは、『狩歌(かるうた)』。


J-POPを流しながら、歌詞に出てきた単語の札を取るゲーム。


机の上には、「恋」「風」「ひとり」みたいな言葉が並ぶ。


誰かが曲を流し、歌詞が流れた瞬間、全員の手が一斉に伸びる。


知らない曲でも、急に目当ての単語が飛び出してくる。

有名な曲ほど、逆に反射神経の勝負になった。


「あーー!!今“空”言った!」

「先だったって!!」


そんな声が、何度も重なる。


後半になる頃には、もうカルタというより“歌詞探し”だった。


残った札を見ながら、

「この単語入ってる曲なんだっけ……」

と友人たちと頭を抱え、スマホ片手に曲を探し始める。


序盤から圧倒的な強さを見せていたのは、はるくんだった。


札を取る速さも、曲への反応も早い。

集計では90点。


「強っ……」

と、みんなが札の量に驚いていた。


けれど終盤。

高得点札を重ねたみずきちが、一気に逆転する。

最終得点、101点。

歓声と拍手が同時に上がった。


「すごーい!」

「逆転した!」


勝った人も、負けた人も、なんだか全部楽しかった顔をしていた。


気づけば、時計はずいぶん進んでいた。


たった三時間なのに、

誰かの家に遊びに来て、気づいたら夜になっていたみたいな感覚。


遊び疲れた空気のまま、みんな少し眠たそうに笑っていた。

 
 

最新記事

すべて表示
5月29日の物語

雨上がりのようなやわらかい空気が、ラウンジに流れていた。 「初めましての人もいるし、もっとみんなのこと知りたいな」 りのが棚から取り出したのは、『佐藤です。好きなおにぎりの具は梅です。』というゲームだった。 お題に答え、その答えを今度はみんなで当てる。たったそれだけなのに、不思議と人柄が滲み出る。 好きなもの。苦手なもの。思いがけないこだわり。 一巡終わる頃には、「そんな一面あったんだ」と笑い声が

 
 
5月28日の物語

ラウンジに降りてきたみやびとなつとすぎちゃんは、最初に少しだけ背筋を伸ばした。 床には、たいがが置いていたチラシが散乱している。 けれど、その場には誰もいない。 普段は閉まっているラウンジのドアも少しだけ開いていた。 「……不審者?」 誰かがそう呟いた瞬間、その説が妙に有力になってしまう。 三人は護身用として、殺陣練習用の刀をそれぞれ手元に置き始めた。 友人が遊びに来る気配がすると、すぐに刀を持っ

 
 
5月26日の物語

火曜日のラウンジには、いつもの笑い声があった。 でもその奥に、少しだけ“終わり”の気配が混ざっていた。 この日、えさっしーはこのシェアハウスを旅立つ。 だからまずは、えさっしーのやりたいことを全部やろう、という話になった。 机の上には、次々とボードゲームが広がっていく。 最初に始まったのは『答えを合わせましょうゲーム』。 価値観を揃える、シンプルだけど妙に盛り上がるゲームだった。 「好きなおにぎり

 
 
bottom of page