5月16日の物語
ラウンジには、作業の音が静かに流れていた。
キーボードを叩く音。
動画を書き出す待機音。
誰かが時折こぼす笑い声。
その中心で、せいとは誕生日会動画の最終調整をしていた。
恒例になりつつある、誕生日動画。
映像の中では、笑っている人たちがいて、誰かの「おめでとう」が重なっていく。
当日ラウンジにいた友人たちにも、完成しかけの動画を見せる。
映像が終わると、自然と拍手が起きた。
5月誕生日のかりんは、少し照れくさそうにしながら、それでも本当に嬉しそうだった。
「早く上がらないかなぁ」
そう呟いた顔が、動画の中の笑顔と少し似ていた。
そのあと、かりんが突然オセロを持ち出した。
「くぼりお、勝負しよ!」
完全に勢いだった。
けれど、対戦相手に選ばれたくぼりおは、オセロにあまり慣れていなかったらしい。
「え、どこ置けばいいのー!?」
盤面を前に頭を抱える。
黒と白が少しずつ広がっていくたび、かりんは得意げになっていった。
結果は、かりんの勝利。
そこで終われば良かったのに、調子に乗ったかりんは次にみずきちへ挑戦状を叩きつける。
けれど、みずきちは強かった。
静かに盤面を見つめ、じわじわと相手を追い詰めていく。
「俺やったらそこ置くなぁ〜」
横からせいとが野次を飛ばす。
けれど、どこに置くかは絶対に教えない。
かりんの勢い任せの打ち方に対して、みずきちは戦法を積み重ねていく。
気づけば、一時間近い攻防になっていた。
そして最後は、みずきちの圧勝。
「オセロって性格出るねぇ」
誰かのその一言に、全員が妙に納得して笑っていた。
夕方を過ぎた頃。
今度は、くぼりおがみずきちへ刀の持ち方を教えていた。
みずきちは殺陣が初挑戦だったらしい。
握り方。
足運び。
身体の向き。
基礎をひとつずつ確認しているところへ、友人たちも合流してくる。
「せっかくだし動画撮ろうよ」
そんな流れで、小さな殺陣撮影会が始まった。
友人が芯に入り、かりんとくぼりおが周りを囲み、みずきちがカメラを回す。
斬るタイミング。
避ける角度。
少しずつ動きを合わせながら、一つのシーンを作っていく。
そして最後。
決め台詞だけ、せいとが後ろからアテレコを入れた。
動画の締めが彩られた。
前半は静かな作業部屋みたいだったラウンジが、いつの間にか、小さな撮影現場になっていた。
誰かが何かを始めると、自然に誰かが加わっていく。
そんな空気が、その夜もゆっくり流れていた。
