top of page

5月16日の物語

  • 5月17日
  • 読了時間: 2分

ラウンジには、作業の音が静かに流れていた。


キーボードを叩く音。

動画を書き出す待機音。

誰かが時折こぼす笑い声。


その中心で、せいとは誕生日会動画の最終調整をしていた。


恒例になりつつある、誕生日動画。

映像の中では、笑っている人たちがいて、誰かの「おめでとう」が重なっていく。


当日ラウンジにいた友人たちにも、完成しかけの動画を見せる。

映像が終わると、自然と拍手が起きた。


5月誕生日のかりんは、少し照れくさそうにしながら、それでも本当に嬉しそうだった。


「早く上がらないかなぁ」

そう呟いた顔が、動画の中の笑顔と少し似ていた。


そのあと、かりんが突然オセロを持ち出した。

「くぼりお、勝負しよ!」

完全に勢いだった。


けれど、対戦相手に選ばれたくぼりおは、オセロにあまり慣れていなかったらしい。

「え、どこ置けばいいのー!?」

盤面を前に頭を抱える。


黒と白が少しずつ広がっていくたび、かりんは得意げになっていった。


結果は、かりんの勝利。


そこで終われば良かったのに、調子に乗ったかりんは次にみずきちへ挑戦状を叩きつける。


けれど、みずきちは強かった。


静かに盤面を見つめ、じわじわと相手を追い詰めていく。


「俺やったらそこ置くなぁ〜」

横からせいとが野次を飛ばす。

けれど、どこに置くかは絶対に教えない。


かりんの勢い任せの打ち方に対して、みずきちは戦法を積み重ねていく。


気づけば、一時間近い攻防になっていた。

そして最後は、みずきちの圧勝。


「オセロって性格出るねぇ」

誰かのその一言に、全員が妙に納得して笑っていた。


夕方を過ぎた頃。

今度は、くぼりおがみずきちへ刀の持ち方を教えていた。


みずきちは殺陣が初挑戦だったらしい。


握り方。

足運び。

身体の向き。


基礎をひとつずつ確認しているところへ、友人たちも合流してくる。


「せっかくだし動画撮ろうよ」


そんな流れで、小さな殺陣撮影会が始まった。


友人が芯に入り、かりんとくぼりおが周りを囲み、みずきちがカメラを回す。


斬るタイミング。

避ける角度。

少しずつ動きを合わせながら、一つのシーンを作っていく。


そして最後。


決め台詞だけ、せいとが後ろからアテレコを入れた。

動画の締めが彩られた。


前半は静かな作業部屋みたいだったラウンジが、いつの間にか、小さな撮影現場になっていた。


誰かが何かを始めると、自然に誰かが加わっていく。

そんな空気が、その夜もゆっくり流れていた。

 
 

最新記事

すべて表示
5月29日の物語

雨上がりのようなやわらかい空気が、ラウンジに流れていた。 「初めましての人もいるし、もっとみんなのこと知りたいな」 りのが棚から取り出したのは、『佐藤です。好きなおにぎりの具は梅です。』というゲームだった。 お題に答え、その答えを今度はみんなで当てる。たったそれだけなのに、不思議と人柄が滲み出る。 好きなもの。苦手なもの。思いがけないこだわり。 一巡終わる頃には、「そんな一面あったんだ」と笑い声が

 
 
5月28日の物語

ラウンジに降りてきたみやびとなつとすぎちゃんは、最初に少しだけ背筋を伸ばした。 床には、たいがが置いていたチラシが散乱している。 けれど、その場には誰もいない。 普段は閉まっているラウンジのドアも少しだけ開いていた。 「……不審者?」 誰かがそう呟いた瞬間、その説が妙に有力になってしまう。 三人は護身用として、殺陣練習用の刀をそれぞれ手元に置き始めた。 友人が遊びに来る気配がすると、すぐに刀を持っ

 
 
5月26日の物語

火曜日のラウンジには、いつもの笑い声があった。 でもその奥に、少しだけ“終わり”の気配が混ざっていた。 この日、えさっしーはこのシェアハウスを旅立つ。 だからまずは、えさっしーのやりたいことを全部やろう、という話になった。 机の上には、次々とボードゲームが広がっていく。 最初に始まったのは『答えを合わせましょうゲーム』。 価値観を揃える、シンプルだけど妙に盛り上がるゲームだった。 「好きなおにぎり

 
 
bottom of page