5月18日の物語
その日のラウンジには、どこか“頭が起ききっていない午後”みたいな空気が流れていた。
うめしゅーも、いっちーも、なんだか脳みそが回っていない。
「今日はもう難しいこと無理かも……」
そんな空気の中で始まったのが、『ザ・ゲーム』だった。
勝ち負けを争うゲームではない。
全員で協力して、ただ“クリア”を目指すゲーム。
最初は、全然うまくいかなかった。
カードを出すタイミングも噛み合わず、
「いや今それ!?」
「待って待って!」
と、みんな頭を抱える。
けれど、少しずつ空気が変わっていく。
誰かが困っていそうなら待つ。
今この人が何を考えているか想像する。
自分が出したいカードより、みんなの流れを優先する。
そんな小さな思いやりが積み重なっていった。
気づけば、あと数枚。
「いけるかも」
という空気が、卓を囲む全員の間に生まれていた。
そして、ギリギリのところでクリア。
「うわぁぁぁ!!」
「やった!!」
歓声と拍手が同時に起きる。
順位も優劣もないのに、
全員で一つのゴールへ向かって喜ぶ時間は、不思議なくらい温かかった。
夜が深まると、ラウンジでは新しい企画が始まった。
“脚本リレーウィーク”。
月曜から木曜まで、その日にいるメンバーで少しずつ脚本を書き、
金曜日には朗読劇として完成させる。
今回のテーマは、“ホラー”。
まずは、みんなの怖い体験を持ち寄るところから始まった。
金縛り。
夜中に見た影。
兄弟だけが見えていた“何か”。
話しているうちに、ラウンジの空気が少しずつ静かになっていく。
うめしゅーは、最初こそ少しほっこりする怪談を話していた。
けれど後半になるにつれて、空気の温度が変わるような、本当に怖い話を語り始める。
誰も口を挟まずに聞いていた、その時だった。
話が終わったタイミングで、いっちーがぽつりと言った。
「僕、小さい頃、二時になると“お父さんおかえり”って言う子だったんですよね」
一瞬、空気が止まる。
「……え?」
笑うでもなく、驚くでもなく、
ただ全員が静かにその言葉を受け止めていた。
せいとは、その話を聞きながら、しっかりメモを取っていた。
怖い話として終わらせるのではなく、どう脚本に落とし込むかを考えている顔だった。
ラウンジの真ん中で、少しずつ物語の輪郭が出来ていく。
まだ結末は誰も知らない。
けれど、その“これから何になるんだろう”という感覚が、
なんだか少し楽しそうだった。
