6月11日の物語
ラウンジには、穏やかな笑い声がゆっくりと広がっていた。
何か特別な出来事が起きたわけではない。ただ、誰かの思い出話が別の誰かの記憶を呼び起こし、気づけばみんなが少しだけ昔に戻っていた。
きっかけは何気ない身体の話だった。
れみーが学生時代、見知らぬ後輩からふくらはぎを褒められた話をすると、そこから自然と学生時代の思い出話へと繋がっていく。
頭髪検査や手荷物検査。
夏服の話や制服の話。
すぎちゃんが「暑い夏はポロシャツだったな」と懐かしそうに言えば、くぼりおも同じだったと頷く。
それぞれ違う学校に通っていたはずなのに、不思議と重なる記憶も多かった。
バレンタインの話では照れ笑いが生まれ、昔のちょっとした恋の話では小さな歓声も上がる。
「学生っていいよね」
誰かがそう言った時、友人の一人がぽつりと答えた。
「でも、今の方が自由で充実してるかも」
その言葉に、みんなが自然と笑顔になった。
過去を懐かしみながらも、今を好きだと言えることが、なんだか素敵だった。
話題はやがて、大好きな場所へと飛んでいく。
ディズニーの話だった。
海外のパークに行ったことがある友人の体験談に、羨望の声が飛び交う。
日本のパークの話になると、細かな設定やアトラクションの話が次々と飛び出した。
知らない人にはきっと伝わらないくらい細かな話なのに、その場にいる全員にはちゃんと伝わる。
好きなものを語る人の目は、いつだって少しだけ輝いて見える。
そして最後には、誰からともなく同じ結論に辿り着いた。
「ディズニー行きたい!!」
その言葉に全員が大きく頷いていた。
思い出話と夢の話で満たされたあと、今度は音楽が始まる。
れみーが見つけてきた海外の動画をきっかけに、三人で『Made You Look』のハモリに挑戦することになった。
くぼりおが主旋律。
れみーが上ハモ。
すぎちゃんが下ハモ。
音を探しながら歌い始めるものの、途中で自分のパートを見失ってしまう。
「あっ、ごめん!」
「いいよー!もう一回!」
そんなやり取りが何度も繰り返された。
失敗しても誰も焦らない。
むしろその度に笑い声が増えていく。
少し前まで学生時代を語っていた人たちが、今度は一つの音を作ろうとしている。
気づけば三十分ほどが過ぎ、一本の動画が完成していた。
ほんの思いつきだったはずなのに、ちゃんと形になっている。
そのことが少し嬉しかった。
思い出話をして、好きなものを語って、歌を重ねる。
特別ではないけれど、たしかに心に残る時間。
友人たちと笑い合う何気ないひとときが、実は宝物なのかもしれない。
そんなことを、ラウンジのやわらかな空気がそっと教えてくれた一日だった。
