6月15日の物語
ラウンジには、どこか冒険の始まりを待つような空気が漂っていた。
この日から始まる脚本リレーWEEK。
最初の一日目は、物語の土台を作る大切な役目を担っていた。
「最初がいちばん重要だから、ちゃんと考えたいな」
ささみがつぶやき、みんなが頷く。
どんな世界にするかを話している中で、ささみがふと思いついたように口を開いた。
「ドラクエ12の当初のコンセプトだったダークファンタジーをやってみませんか?」
ドラクエ好きのうめしゅーは、その提案を快く受け入れた。
そこからは全員で世界を作る時間だった。
友人たちが登場人物の名前を考え、国の名前を考える。
妖精国ティーア・ナ・シノアーリン。
不思議な響きを持つその名前が生まれた瞬間、まだ何も書かれていない物語に輪郭が宿った気がした。
せいとやささみ、友人たちがアイデアを話し、うめしゅーが言葉を紡いでいく。
三時間ほどかけて千文字を超えた頃には、妖精の国から始まる物語が静かに動き出していた。
次の舞台は人間界。
続きを書くのは明日のメンバーだ。
「この先どうなるんだろう」
そんな期待を抱きながら、友人たちは完成した冒頭を眺めていた。
物語を作っている横では、別の事で盛り上がっていた。
ほとんどボードゲームをやったことがない友人がいたため、せいとが取り出したのは『トマトマト』だった。
単純そうに見えて、だんだん言葉が絡まっていくゲーム。
最初は少し緊張していた友人も、何度か遊ぶうちに表情が柔らかくなっていく。
「トマトマトトマトマトマト……」
長い文章を言い切るたびに拍手が起こる。
誰かが成功すればみんなで喜び、失敗すればみんなで笑う。
そんな空気が自然とできあがっていた。
せいとやささみも途中から本気になっていた。
急かされながらも最後まで言い切ると、
「さすが俳優だ」
と声が飛ぶ。
二人とも少し照れながら、どこか満更でもなさそうだった。
大きな物語を作る時間もあれば、言葉遊びで笑い合う時間もある。
そのどちらにも共通していたのは、人が集まって何かを共有する楽しさだった。
顔なじみの友人たちがそれぞれ好きなことをしながら過ごし、ときどき同じ輪の中で笑い合う。
誰かがいても、ひとりでいても居心地が悪くならない。
そんな不思議な安心感がラウンジには流れていた。
妖精の国で始まった物語も、トマトマトの賑やかな笑い声も、その日の終わりには同じ場所の思い出になっていた。
続きが気になる物語を残したまま、六月の夜は静かに更けていった。
