6月18日の物語
ラウンジには、二つの時間が同時に流れていた。
ひとつは物語を書く時間。
もうひとつは、物語が生まれる声に耳を傾ける時間だった。
月曜日から続いてきた脚本リレーも、この日で最終日を迎える。
木曜日に託された役割は“結”。
妖精族と人間が生きるダークファンタジーの物語に終幕を与えることだった。
けれど、読み始めた三人は思わず顔を見合わせる。
月曜と火曜では四人だった登場人物が、水曜日を経て十二人になっていたのだ。
「何が起きた!?」
驚きと笑いが混じる中、まずは物語の整理から始まった。
複雑に絡み合った関係性を、れみーが丁寧に相関図へ書き起こしていく。
一本一本の線が結ばれるたびに、霧の中だった世界が少しずつ輪郭を取り戻していった。
はるきを中心に三人で意見を出し合い、散らばった出来事を拾い集めながら、大きな流れを形にしていく。
やがて進むべき道筋が見え、それぞれが担当する場面を書き始めた。
そんな創作の熱気のそばでは、別の輪ができていた。
友人の一人が棚を眺めながら、占いの話を口にしたことがきっかけだった。
その時、ふらりとうめしゅーが帰宅する。
「さくっと占おうか?」
軽い一言から始まったタロット占いは、気づけば小さな人気企画になっていた。
最初は一人だけだったはずが、「けっこう当たるかも……」という声に引き寄せられるように、次々と友人たちが集まってくる。
カードをめくるたびに歓声が上がり、ときには真剣な表情になる。
「ピンポイントに当てられたら泣いちゃうかも」
そんな言葉に、はるきが静かに頷く。
脚本を書く人。
占いを受ける人。
過去の占い話で盛り上がる人。
同じ場所にいながら、それぞれが違う時間を過ごしていた。
それでも不思議と空気はひとつだった。
脚本に苦戦しながら何度も書き直すすぎちゃん。
箇条書きを並べながら着実に物語を整えていくれみー。
そして、最後の結末を担うはるき。
気づけばラウンジの利用時間が迫っていた。
物語はあと少し。
最後のバトンは、はるきへ渡される。
キーボードを叩く音だけが静かに続く。
すぎちゃんとれみーは、その姿をそっと見守っていた。
迷いなく紡がれていく文章。
登場人物たちが、それぞれの終着点へ向かって歩いていく。
そして最後の一文を書き終えたとき。
はるきは短く言った。
「終わった」
その言葉とともに、一週間かけて繋がれた物語が幕を閉じる。
誰かが頑張る姿を、誰かが応援している。
そんな当たり前のようで特別な景色が、この日のラウンジには広がっていた。
明日の朗読が、少しだけ待ち遠しかった。
