6月19日の物語
一週間かけて紡がれてきた物語が、ついに声を持つ日だった。
月曜日から始まった脚本リレーWEEK。
その最終日に集まったのは、物語を書いた者たちと、これから物語を読む者たちだった。
まずは脚本の確認から始まる。
月曜日の“起”を書いたささみとせいと、火曜日の“承”を担当したみずきちが完成稿を開き、思わず顔を見合わせた。
「どうしてこうなった!?」
火曜日までは四人だったはずの登場人物は、気づけば十三役に増えていた。
初見のはるくんだけが状況を飲み込めないまま静かに画面を見つめる。
誤字脱字を直し、名前の表記を揃え、矛盾を探していく。
「ここってこうだから、この展開だとおかしくない?」
「コッペがユースってなに?」
困惑と笑いが交互に訪れる。
けれど、その混沌さえもどこか愛おしい。
何人もの手を渡り歩きながら育った物語には、不格好な部分も含めて確かな温度が宿っていた。
ようやく添削が終わった頃には、張りつめていた頭に甘いものが染み渡るような安堵が広がっていた。
そして朗読劇の本番。
役が配られ、友人たちもナレーションや登場人物として物語の中へ加わる。
客入りを思わせる音楽が流れ、やがて静かにファンタジーの幕が上がった。
妖精と人間が生きる世界。
剣と宿命と別れ。
誰かが書いた一文を、別の誰かが声にする。
その繰り返しによって、文字だった物語が少しずつ立ち上がっていく。
“転”の場面では小さな笑いも起きた。
重たい物語の中で、ふっと息をつける場所だったのかもしれない。
けれど最後は再び張りつめた空気へ戻り、物語は終幕を迎える。
最後の台詞。
消えていくBGM。
そして短い静寂。
そのあとに起こった拍手は、一週間分の時間への拍手でもあった。
起を書いた人。
承を書いた人。
予想もしない方向へ物語を飛ばした転を書いた人。
それらを抱きしめるように結んだ人。
誰か一人では辿り着けなかった結末が、そこにはあった。
帰り際、はるくんが「写真deひとこと」をやろうと言い出した。
朗読劇の余韻が残る中、今度は笑いの勝負が始まる。
挑戦者ははるくんとせいと。
解説席にはささみとみずきち。
鋭いのか適当なのかわからない野次が飛び交う。
はるくんが着実に点を重ねる一方で、せいとは頭を抱えながら言葉を探していた。
そして最後の一枚。
同点のまま迎えた決着の瞬間。
わずかな差で勝利したのは、はるくんだった。
握手を交わす二人を見ながら、みんなが笑う。
昼間はひとつの物語を読み、夜はひとつの遊びに本気になる。
そんな時間の流れ方が、どこかこの場所らしかった。
円陣を組んで始まった朗読劇も、最後の握手も。
その日ラウンジにいた誰もが、同じ物語の登場人物になっていた。
