6月24日の物語
この日は「少し肩の力を抜いて過ごそう」という空気が流れていた。
画面には猫の映像が映り、ゆるやかな時間の中で人が集まってくる。
誰かが飲み物を片手に腰を落ち着け、誰かが近況を話し始める。
そんな何気ない夜の始まりだった。
しばらくして、つばさが思いついたように提案する。
「みんなが観たことある映画、一致させてみない?」
そこから始まったのは映画一致ゲームだった。
あまりにも有名な作品は避けながら、それぞれが「これは観ているだろう」と思う作品を挙げていく。
しかし不思議なことに、観ていそうな作品ほど揃わない。
いっちーとせいとも自信満々だった。
けれど友人たちは観ていなかったり、逆に友人たちだけが知っていたりする。
映画の話はいつしかアニメや漫画へ脱線し、また映画へ戻る。
そのたびに好きな作品の話が広がり、その人らしさが少しずつ見えてくる。
そんな中、いっちーがふと思い出したように言った。
「ポケモンならみんな何かしら観てるでしょ!」
確かに全員が観ていた。
ただし、同じ作品ではなかった。
惜しい空気が流れる中、誰かが最近の作品でピカチュウが喋るシーンの話を始める。
「え、ピカチュウ喋るの?」
せいとは驚いてすぐに映像を探し始めた。
やがて見つかったその場面を、みんなで覗き込むように見る。
慣れ親しんだ存在が口を開く、その不思議さに驚きながらも自然と笑いがこぼれた。
そして誰かが言う。
「これで全員、同じ映画を観たね。」
その言葉にみんなが笑った。
ゲームとしては成功だったのか失敗だったのか分からない。
けれど、同じ場面を囲んで驚き合ったその瞬間は、確かに全員で共有した映画の記憶になっていた。
話題はそのまま別のゲームへ移る。
今度は“この世のあるある”を出し合い、全員が経験しているものを探していく遊びだった。
順調に手が上がる中、つばさが尋ねる。
「たんぽぽをふーって飛ばしたことある人?」
当然のようにみんなが手を挙げる。
ただ一人を除いて。
いっちーだけがキョトンとしている。
理由を聞かれると、
「むしって投げてた。」
と、ごく自然な顔で答える。
一瞬の沈黙。
次の瞬間には笑いと悲鳴が入り交じったようながラウンジいっぱいに広がった。
綿毛を空へ飛ばすものだと思っていた人たちにとって、その発想はあまりにも豪快だったのだ。
けれど当の本人は、なぜ驚かれているのか分からない様子でぽかんとしている。
その姿がまたおかしくて、みんなの笑いはしばらく続いた。
ラウンジ開放時間を終えるアナウンスが流れる頃。
映画を語り、思い出を話し、たんぽぽひとつで大笑いする。
特別な出来事があったわけではない。
それでも、何気ない会話がゆっくりと積み重なり、夜は少しだけあたたかくなっていた。
帰り際、画面の中では猫が変わらずのんびりと過ごしている。
その穏やかな姿を横目に、それぞれが手を振って帰っていく。
何かを成し遂げた日ではないけれど、誰かと同じ時間を過ごしたことが嬉しくなる。
そんな静かな余韻を残して、六月の夜は更けていった。
