6月30日の物語
ラウンジに流れていた何気ない会話の中で、誰かがぽつりと呟いた。
「女子会って、したことないかも。」
その一言をきっかけに、「じゃあ、やってみよう!」と笑い声が重なる。
ただし、少しだけ特別な女子会だった。
実際の年齢も性別も忘れて、それぞれが架空の恋をしている人物になる。
元サークル仲間という設定まで決めると、ラウンジはあっという間にどこかのカフェへ姿を変えた。
ダメ男に振り回されている子。
逆プロポーズを考えている子。
同性への恋に戸惑う子。
告白されそうで落ち着かない子。
先生に恋をしてしまった子。
存在しないはずの恋なのに、その悩みはどれも本物のようだった。
「その人はやめた方がいいって!」
「でも好きなんだよね。」
「まずは二人でご飯に行ってみたら?」
黄色い声が飛び交い、ときには真剣な作戦会議まで始まる。
誰も経験していない恋なのに、みんな本気で相手を思い、言葉を選んでいた。
気づけば一度では話し足りず、「三か月後にまた集まった」という設定で第二回女子会まで始まる。
「あの人とはどうなったの?」
「あれから付き合ったんだけどね。」
即興で紡がれる恋の続きに、笑ったり驚いたりしながら時間は過ぎていく。
一時間以上も恋愛話を続けたあと、誰かが笑いながら言った。
「女子って、本当に話すの好きなんだね。」
その言葉に、全員が大きく頷いた。
せっかくだから今度は男子会もやってみよう、という流れになる。
今度は全員が男性役になり、架空の男子会が始まった。
……ところが。
「最近どう?」
「まあまあ。」
「仕事は?」
「ぼちぼち。」
会話はあっという間に途切れてしまう。
女子会であれほど広がった話題はどこへやら。
誰かが、
「もう男子会はいらんね!」
と言うと、ラウンジは再び笑い声でいっぱいになった。
笑いが落ち着いた頃、友人から一つの質問が投げかけられる。
「役って、どうやって演じ分けてるの?」
そこからは、りの、ささみ、くぼりお、それぞれの役づくりについて語る時間になった。
役の人生を細かく考える人。
まず声や姿勢から探す人。
相手との関係性を大切にする人。
同じ「演じる」ということでも、その入り口は一人ひとり違っていた。
友人たちは興味深そうに耳を傾け、ときどき質問を重ねながら、それぞれの表現の世界を楽しんでいた。
架空の恋に一喜一憂し、架空の男子会で大笑いし、最後は役者としての本当の話を交わす。
遊びと芝居の境界は、今日もいつの間にか溶け合っていた。
笑いながら誰かになり、誰かを理解しようとする時間は、きっと演技だけではなく、人と向き合うことにも少し似ている。
そんなことを思わせる、やわらかく賑やかな夜だった。
