6月5日の物語
明日のための準備をする夜は、どこか文化祭前日に似ている。
ラウンジでは、なつとせいと、れみーの三人が風船を膨らませながら、少しずつ明日の景色を作っていた。
主役は、明日誕生日を迎えるはるき。
まだ誰もいない空間なのに、すでにその人の存在があちこちに漂っているようだった。
「かわいい飾り付け調べるー!」
なつが張り切ってスマホを開く。
ところが次の瞬間、なぜか流れ始めたのはアイネ・クライネ・ナハトムジークだった。
しかも止まらない。
何度触っても、調べ物どころではなく軽快なクラシックだけが流れ続ける。
「なんで!?」
笑いながら困るなつの横で、せいととれみーも声を上げた。
結局その騒動も含めて、準備の時間はどんどん楽しくなっていった。
やがて三人は、風船でタワーを作りたいと言い出した。
膨らませた風船を並べてみる。
崩れる。
結び直す。
また崩れる。
何度も試行錯誤を繰り返しながら少しずつ形が見えてくる。
完成した頃には、そこはただの飾りではなくなっていた。
思わず写真を撮りたくなるような、小さなフォトスポット。
明日ここで誰かが笑う姿まで想像できるような場所だった。
飾り付けがひと段落した頃、れみーがぽつりと言った。
「明日のテーマソング作りたい」
その一言から、今度は作曲会議が始まる。
はるきといえば何だろう。
どんな言葉が似合うだろう。
三人で思いつくままキーワードを並べていく。
そしてしばらくして、れみーが誇らしげに言った。
「できた!」
流れてきた曲に、三人は一瞬静かになる。
そして次の瞬間、吹き出した。
なぜか女性ボーカルだった。
はるきの誕生日ソングなのに、はるきのイメージとは真逆のかわいらしい歌声。
その予想外さが可笑しくて、しばらく笑いが止まらなかった。
それでも何度も手を加え、言葉を選び直し、少しずつ曲は形を変えていく。
そうして最後にできあがったのは、ちゃんとはるきらしさが詰まった一曲だった。
「いいじゃん」
誰かがそう呟く。
その言葉に、みんな満足そうに頷いた。
完成した曲を流しながら、また風船を並べる。
きらきらした飾りが揺れている。
まだ誕生日は始まっていない。
けれど、誰かのために時間を使うことで生まれる特別な空気は、もうそこにあった。
明日がきっと良い日になる。
そんな予感だけを静かに残して、準備の夜は更けていった。
