6月6日の物語
誕生日というものは、不思議だ。
祝われる本人より、周りの人の方がどこか嬉しそうな顔をしていることがある。
この日のラウンジは、まさにそんな空気に包まれていた。
主役は、はるき。
前日まで準備されていた飾り付けや風船が並ぶ中、友人たちも続々と集まり、特別な一日が始まった。
最初のきっかけは、はるきの何気ない相談だった。
「オーディション用の歌動画、何の曲がいいかな」
ミュージカルソングを中心に候補を挙げていく。
ディズニーはどうだろう。
この曲はどうだろう。
話し合ううちに、れみーが提案した。
「実際に歌って決めたら?」
その一言で、ラウンジは即席の劇場になる。
一曲目の『陽射しの中へ』。
二曲目の『ブギー・ウギーの歌』。
友人たちは真剣に耳を傾け、歌い終わるたび感想を交わした。
そして誰かが言う。
「『ひと足お先に』はどう?」
試しに歌ってみる。
伸びやかな歌声。
台詞のような表現。
曲の中でくるくる変わる表情。
歌い終わった瞬間、みんなの顔に同じ答えが浮かんでいた。
「これだね」
自然と拍手が起こる。
応援の気持ちと期待が、その音に混ざっていた。
その後、なつが思いついたのはもっと突飛だった。
「テーマパークのおおばはるきパーク作ろう!」
はるきが演じるサメのキャラクターで、うまい棒たこ焼き味を食べると会話ができるらしい。
設定からして謎だった。
「好きな食べ物はなんですか!」
「わかめ」
真面目に答えるシャーキーくん。
友人たちも全力で乗っかる。
キャラクターを崩さないはるきと、それを面白がる周囲。
トークショーは思いがけない方向へ転がり続けた。
最後にはグリーティングまで行われ、全員で記念写真を撮る。
一日限りのキャラクターだったはずなのに、きっと写真を見るたび思い出される存在になった。
賑やかな時間の合間には、もうひとつの贈り物も進んでいた。
友人たちが作っていたアルバム。
せいと、なつ、れみーも一緒にページを埋めていく。
言葉を書き、思い出を書き、少し立ち止まっては笑う。
完成したアルバムが手渡された時、はるきは本当に嬉しそうだった。
ページをめくるたびに、そこにいる全員が自然と覗き込む。
誰かの思い出をみんなで共有しているような時間だった。
歌があって。
笑いがあって。
少し照れくさい言葉があって。
たくさんのプレゼントがあって。
そして何より、人がいた。
祝う人も、祝われる人も、みんなが同じくらい幸せそうだった。
誕生日の終わりに残ったのは、大きなイベントの余韻というよりも、「いい一日だったね」と静かに頷きたくなるような温かさだった。
ラウンジには、その温度だけがいつまでも残っていた。
