top of page

6月10日の物語

6月11日
読了時間: 3分

ラウンジには、それぞれの時間が静かに流れていた。

誰もが同じことをしているわけではない。けれど不思議と、その空間にはひとつの温度があった。


なつは今度出演する舞台で使う小道具について頭を悩ませていた。

テーマは「小学生でもできるおばけ」。

怖すぎず、でもちゃんとおばけらしく。


友人たちも巻き込みながら案を出し合い、最終的に決まったのは提灯おばけだった。


「じゃあ作ろう!」

そう言ったのは、図工が得意なはるきだった。


画用紙を手に取ると、折り方を考えながら器用に形を作り始める。


本来ならそこに、なつが色を塗ったり装飾したりして完成させる予定だった。


けれど作業が始まると、なつは友人たちとの会話に夢中になってしまう。


笑い声を上げながら話しているうちに、気づけば提灯おばけはほとんど完成していた。


「ほぼ俺やん」

そう言いながらも、はるきはどこか誇らしそうだった。


出来上がったおばけは、どこか愛嬌があった。

怖いというより、舞台のどこかでひょっこり現れそうな親しみやすさがある。


「ちゃんとクレジット入れてね!」

はるきが冗談めかして言うと、周囲から笑いが起きた。


友人たちも完成品を眺めながら、「舞台で見たいな」と期待を口にしていた。


その頃、ラウンジの別の場所では、いっちーが舞台の稽古をしていた。


今度出演する作品『東中野サンブンノイチ』。


たいがや役者仲間も集まり、本来は台詞を覚えるための確認稽古だった。


けれど役者が集まれば、それだけでは終わらない。

一場面だけのつもりが次の場面へ。

次の場面からまた続きへ。

気づけば一本まるごと通していた。


台詞を追う目。

相手の言葉を受ける表情。

普段ゲームや雑談をしている住人たちとは違う顔がそこにあった。


友人たちも自然と見守る側になり、最後まで静かにその時間を共有していた。


芝居をしている人も。

それを見ている人も。

どちらも楽しそうだった。


この日のラウンジは、一つの輪になって盛り上がる日ではなかった。


小道具を作りながら語り合う人たち。

舞台稽古に集中する人たち。

久しぶりの友人と昔話に花を咲かせる人たち。


それぞれが別々の時間を過ごしている。


けれど、そのどれもが心地よく共存していた。


誰かの笑い声が聞こえれば少しだけ耳を傾ける。

芝居が始まればそっと見守る。

完成したおばけを見ればみんなで褒める。


そんな小さな優しさが、ラウンジのあちこちに散らばっていた。


それぞれの時間が重なり合いながら、静かに良い一日ができあがっていた。

 
 

最新記事

すべて表示
9月16日の物語

雨のせいか、この日のラウンジにはいつもよりゆっくりとした時間が流れていた。 それでも、誰かの隣には自然と誰かがいて、話し声が静かに途切れることはなかった。 ゲームにも少し飽きてきた頃、まさき、たいが、いっちーの三人はダーツを始めることに。 最初こそ点数を数えていたものの、次第に面倒になり、なぜか「最初にブルへ入れた人が負け」という男気ダーツが始まった。 真剣にブルを狙いながら「入るな!」と叫ぶ、矛

 
 
9月15日の物語

この日のラウンジは、みずきち、がくし、はるきと、遊びに来た友人たちでゆったりと始まった。 大勢で囲むような賑やかさとは少し違う。 それでも、誰かが何かを始めれば、自然とみんなの視線がそこへ集まり、気づけば笑い声が重なっている。 そんな近い距離感の夜だった。 始まりは、がくしが一昨日行われた「メロい先輩選手権」を振り返ったことから。 「そもそも、メロさとは何か」 答えを探すべく、みずきちとはるきに“

 
 
9月14日の物語

久しぶりに顔を見せてくれた友人も多く、この日のラウンジはあちこちで話が弾んでいた。 そんな中、りのと友人たちが始めたのは、おじさん構文を作るゲーム。 手札を組み合わせるたびに、絶妙に嫌な距離感のメッセージが次々と誕生する。 読み上げるたびに悲鳴が上がり、それ以上の笑い声が返ってきた。 やがて「最高の文を考えよう!」と、勝ち負けそっちのけで全員の知恵を集め始める。 そして完成したのが、 「オジサンサ

 
 
bottom of page