7月29日の物語
この日のラウンジには、いつも通りの笑い声が響いていた。
けれど、その「いつも」が少しだけ特別な一日でもあった。
今月末に、さのちゃんはこのシェアハウスを旅立つ。
だからこそ、すぎちゃんにはどうしても今日のうちに終わらせたいことがあった。
それが、「トーテムミヤザワ」の完成だった。
お手洗いのドアに貼り続けてきたミヤザワは、あと数枚でようやく一つの作品になる。
ペンを走らせながら思い出すのは、「恋人にしたいフルーツTOP3」で二つも答えが重なって笑った日や、ミヤザワをきっかけに絵を描く楽しさを教えてもらったこと。
いつの間にか、さのちゃんはミヤザワの師匠のような存在になっていた。
最後の一枚を描き終え、完成したトーテムミヤザワをドアへ貼る。
「なんだこれ(笑)」
最初は戸惑っていた友人たちも、眺めているうちに「意外といいね」「フォトスポットみたい」と笑い始める。
何気ない遊びから生まれたものが、この場所の景色の一部になっていた。
さのちゃんが引っ越しても、ここへ来る人たちはきっと、そのドアを見て少し笑う。
そんな小さな置き土産が、この家には残った。
少ししんみりした空気も、ゲームが始まればいつもの賑やかさへ変わる。
「この中にアイドルがいます。」
そうして始まったファンサ人狼では、アイドル役の巧みなファンサに、はるきもさのちゃんもすっかり翻弄される。
「本当に恋に落ちるみたいな衝撃あるね。」
さのちゃんのその一言に、みんなも頷く。
続いて遊んだ「全力ファンサゲーム」では、今度は一分間でどれだけファンサができるかに挑戦する。
デモンストレーション役になったはるきは、最初こそ戸惑っていたものの、「かわいい!」という声に背中を押され、どんどんアイドルらしさを発揮していく。
順番が回るたびに部屋の熱気は増し、全員が全力でアイドルになりきっていた。
結果はあと一歩届かず。
「悔しいー!」
そう叫ぶはるきの顔は、悔しさよりも楽しさでいっぱいだった。
笑って、遊んで、少しだけ名残を惜しむ。
そんな時間の中で、誰かが残してくれたものは、物だけではなく、一緒に笑った記憶や、新しく好きになれたことなのかもしれない。
さのちゃんがこの家を離れても、その日々はきっと、これからもこの場所で静かに息をし続けていく。
