7月3日の物語
金曜日のラウンジは、誰かの「これやりたい!」から一気に熱を帯びていった。
きっかけは、友人が持ちかけた『ito』。
「女子がプロポーズで言われて嬉しい言葉」
「地球最後の日にしたいこと」
「舞台で言いたいかっこいい台詞」
──答えのない問いに、それぞれの価値観を重ねながら数字を寄せていく。
身振り手振りで伝えたり、思わず芝居になったり。役者が集まるラウンジらしく、答えは言葉だけでは終わらなかった。
中でも一番の盛り上がりは、「喧嘩した彼女に対してする行動」。
ある友人が自信満々に「パセリを渡す」と答えると、一同は「それは一番低い数字だ」と迷わずカードを並べる。
ところが、めくられた数字は二十一。
「えぇ!?」「パセリは一桁でしょ!」
笑いながら価値観の違いに驚き、そのまま「喧嘩した彼女にパセリを差し出す恋人」の即興劇まで始まってしまう。
ゲームひとつで、こんなにも笑えるのがこの場所らしかった。
少し落ち着いた頃、今度はせいとが「食レポが上手くなりたい」と言い出した。
それぞれ好きなお菓子を手に、本気の食レポ大会が開幕する。
ささみは鋭い言葉選びで味を伝え、けんじはお菓子を落として「放送事故だ!」と笑いを誘いながらも、最後はしっかりまとめきる。
せいとは何度も挑戦し、その締めくくりは決まって同じ一言。
「これ、おすすめです!」
その決まり文句が妙にしっくりきて、みんなの中でも合言葉のようになっていた。
夜も更ける頃、
「花火大会ってそんなにいいものなの?」
というささみの一言から、最後の勝負が始まる。
どうすれば花火大会に行きたくなるか、本気のプレゼン大会。
危険な屋上を勧める人もいれば、絶景の山小屋を力説する人もいる。
でも、どれもささみには届かない。
「そんな場所ないでしょ。」
その一言で笑いが起き、作戦は振り出しに戻る。
最後に挑んだ友人は、花火ではなく、ささみの好きな脱出ゲームへ誘った。
「そのあと、一緒に花火見よう。」
「……それなら、行く。」
小さな頷きに拍手が起こる。
誰かを説得することより、その人を知ろうとすること。
この夜に交わされたたくさんの言葉は、勝ち負けではなく、少しだけお互いの世界を広げてくれた気がした。
