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8月9日の物語

8月10日
読了時間: 2分

いつものラウンジが、少しずつ別の世界へと姿を変えていた。


数日後に控えたゾンビ作品の撮影に向けて、ラウンジに暗幕を張り、衣装となるシャツを血まみれにしていく。


同じシャツでも、汚し方にはそれぞれの個性が出る。


せいとはすっかりゾンビになりきって、手形をつけたり握った跡を残したり。みやびは血飛沫を散らしながら、「この人には何があったんだろう」と、一枚一枚に物語を想像していく。


そんな中、白いシャツを着てきてしまったいっちーだけは慎重そのもの。


「絶対につけたくない」


そう警戒しながら作業するものの、結局ほんの少し返り血を浴びてしまい、みんなの笑いを誘っていた。


手を動かしながら一つのものを作っていく時間は、どこか学生時代の文化祭準備にも似ていた。

完成前の景色だからこそ感じられる楽しさが、そこにはあった。


やがてフェンスらしいセットが出来上がってくると、せいとが「ここでインプロやりたい」と言い出した。


どう始めようかと話していたはずが、気づけばせいとはもう物語の中にいる。


フェンスの外にいたいっちーは、「五分後にゾンビになる人」に。


けんじ、みやび、せいとは生存者となり、突然ゾンビインプロが始まった。


最初は「いつものふざけたやつかな」と眺めていた友人たちも、次第に空気の変化に気づき、静かにその世界を見守っていく。


「自分がゾンビになるわけがない」と信じるいっちーと、それを知る生存者たち。


間にフェンスがあるだけで、近づけないもどかしさや、向こう側にいる存在への恐怖が不思議なほど鮮明になる。


実際のセットで動いたからこそ見つかった感情や、本番につながりそうな発見もあった。


さっきまで笑いながら作っていたフェンスが、今は物語を生む場所になっている。


撮影まで、あと少し。


作りかけのラウンジには、本番を待つみんなのわくわくが、少しずつ積み重なっていた。

 
 

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